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東京高等裁判所 昭和36年(ネ)2685号 判決

控訴人が民事訴訟法第七五九条にいわゆる特別事情として主張する三、の(1)ないし(7)につき順次判断する。

(1) 控訴人が製造販売している梨の袋が被控訴人の実用新案に牴触しないのみならず、被控訴人の考案は公知公用のものであるむねの控訴人の主張は、仮処分によつて保全される権利の有無またはその効力に関する主張であつて、特別事情に基づく仮処分の取消申立事件である本件においては判断すべきでないから、これらの点については判断しない。控訴人は本件仮処分により回復すべからざる異常著大な損害を被ると主張するけれども、これを認めるに足る疎明がない。

(2) 本件仮処分請求権である実用新案権侵害排除請求権は、控訴人が被控訴人の前記実用新案権の権利範囲に属する果実袋の製造、加工、販売をなすがために被控訴人の製品である果実袋の販売を阻害する故控訴人に対し右果実袋の製造、加工、販売を禁止しようとするものにほかならないから、控訴人がこの禁止に応じなくとも、これがため被控訴人において被る損害は財産上の損害に帰し、抽象的には本件仮処分によつて保全せらるべき権利は金銭的補償を得ることによつてその終局の目的を達し得るものと解すべきであるが、控訴人が被控訴人の前記実用新案権を侵害する果実袋の販売等をなすことにより被控訴人の製品たる果実袋の販売等を阻害した結果生ずべき被控訴人の損害の範囲を確定することは容易でなく、したがつてその損害額を立証することはいちじるしく困難であるため、民事訴訟法第七五九条の趣旨に副い仮処分請求権とほぼ同価値たり得る適当な保証金額を定めることが不可能であるから、同法条の特別事情があるものとして本件仮処分を取り消すことはできない。

(3) 被控訴人が年間一億枚以上の果実袋を製造しているのに対し、控訴人が製造したものとして仮処分を受けた果実袋が三万枚に過ぎないとしても、そのことからただちに本件仮処分を取消すことにより被控訴人の受ける不利益が、本件仮処分により控訴人が被る不利益に比し小であると断定することはできないし、これを認めるべき疏明はない。

(4) 控訴人作成使用にかかる果実の防疫二重袋については昭和三五年三月二八日出願人畑野修平より特許庁に対し実用新案登録願がなされたことが成立に争いのない甲第一四号証の五により一応認められ、昭和三六年一〇月二〇日にその出願公告の決定があつたことは当事者間に争いがなく、控訴人が同年一一月一三日付で右訴外人からその権利の一部を譲り受けたことは成立に争いのない甲第一四号証の一、二により一応認められ、昭和三七年四月九日に右出願公告がなされたことは当事者間に争いがない。

控訴人は右出願公告がなされた結果自己が現在使用している二重袋の考案につき実用新案法第一二条により実施をする権利を得たから、本件仮処分決定は取り消されるべきむね主張するが、これは被保全権利たる本件実用新案権侵害排除請求権の仮処分後における消滅を主張するもので、民事訴訟法第七四七条第一項前段の事情の変更による仮処分取消の申立と解すべく、同法第七五九条の特別事情には当らないのみならず、成立に争いのない甲第一七号証、乙第二号証、第一〇号証、被控訴人製造の防疫二重袋であることに争いのない甲第一号証、控訴人製造の防疫二重袋であることに争いのない甲第二号証、乙第六号証の一、当審証人奥山恵吉の証言により真正に成立したものと認められる乙第一七号証によると、被控訴人登録の前記実用新案の考案(以下甲考案という)の要旨は、(1)水銀系殺菌剤を混溶した溶融パラフインを浸透させたパラフイン紙を外側に、(2)紫外線透過率の適度な薄紙を内側に重ねて、(3)袋状に縫着した梨類の防疫二重袋の構造にあるところ、前記出願公告にかかる考案(以下乙考案という)の要旨は、「粗面を外方にした殺虫剤混入原紙の袋体の内部に、開口部の両縁を不揃にし、かつ底部に通気孔を設けた新聞紙の内袋を挿入した果実の防疫用二重袋の構造」に存し、両者の要旨を対比するに、(1)殺菌剤または殺虫剤を混入したパラフイン紙を外袋とし、(2)紫外線透過率の適当な紙を内袋とし、(3)外袋を縫着して袋体を形成した果実用防疫二重袋の構造を有する点で相一致し、両者の作用および効果においても、両者ともに「薄紙製内袋により袋内の水分を吸着して水滴の発生を防ぎかつ紫外線透過率を調整すると同時に殺菌剤を有する袋が直接果実へ接触するのを阻止しているので、薬害や日焼の生ずる欠点がない」ことにおいて同一であり、(1)内側の紙を新聞紙とした点、(2)内袋の開口部の両縁を不揃にした点、および(3)内袋の底に通気孔を設けた点は乙考案が甲考案と相違する点であるが、これらは乙考案において甲考案の有する作用および効果を失わせるものではなく、(2)および(3)は別箇の附加的考案であつて、乙考案はその実施に当つては甲考案の権利を利用するものであり、乙考案が登録されてもその権利は実用新案法第一七条によつて、先願権利たる甲考案に関する権利を利用しなければ実施することが許されない考案であると一応認められ、右認定を動かすに足る疏明資料はないから、前記出願公告がなされても、控訴人はその考案につき実用新案法第一二条により実施をする権利を有しないものというべく、控訴人の右主張は理由がない。

(5) 原裁判所が被控訴人の実用新案権の権利範囲に属するものと認定した対象の袋は被控訴人が自ら作成していた袋であつて、控訴人が作成していたものではなかつたという主張は、結局控訴人が作成している果実袋に対し本件仮処分の執行をなすことは許されないという主張に帰するから、本件仮処分の執行に当り執行方法の異議により主張すべき事由であつて、民事訴訟法第七五九条の特別事由には該当しないものというべきである。

(6) 本件仮処分によつて控訴人が異常の損害を被るというのではなく、単に控訴人の被るべき損害の金銭的評価が不能であるということは、民事訴訟法第七五九条により本件仮処分を取り消すべき特別事由ということができない。

(7) 控訴人と取引ある果実農民が本件仮処分によつてその生産計画の樹立が不可能に陥つたとしても、民事訴訟法第七五九条の特別事情ある場合に該当しない。

以上のとおりであつて、控訴人の主張はいずれも採用し難いから、控訴人の本件申立は棄却すべく、これと同趣旨の原判決は相当で本件控訴は理由がない。

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